以前、交通講習で、ベテランのタクシー運転手さんが起こした、事故の話を聞いたことがあります。
その人は、20年間以上タクシーを運転していて、1度も危ない目にあったことがなかったそうですが、魔が差したのか、死亡事故を起こしてしまったということでした。
講師の人は、いくらベテランの人でも、何が起こるかわからないから気をつけて下さいと言いたかったようですが、私が感じたことは、全く違っていました。
それは、20年間も運転していて、1度も危ないと思ったことがないというのは、絶対に変だということです。
即ち、その運転手さんは、危険に対する感受性が低く、危ないことがあっても、気がつかなかったのではないかと思ったのです。
私も会社時代は通勤に車を使ったことがありますし、リタイヤした今でも、私用に時々使っています。
とはいえ、年に1万キロも走らず、5千キロがいいところです。
そんな程度しか運転しなくても、「これは危なかったかもしれない」ということが、度々あります。
特にリタイヤしてからは、危険だったかもしれないことを記録につけるようにしているのですが、1回の運転に1回くらいは、何かトラブル未満のことがあります。
バックに入れたつもりがフロントのままだったり、コンビニの駐車場で後ろを人が通ったり、横断歩道で待っている人に気づかなかったり、そのます。
年に10万キロ近く走る、タクシーの運転手さんが、そういうことが一度もなかったということが、有り得るでしょうか。
「ヒヤリハット」という言葉を、ご存知の方も多いかと思います。
これは、ハインリッヒという人が発見したもので、「ハインリッヒの法則」と呼ばれており、安全関連の業務につく人には、常識となっています。
簡単に言うと、1回の重大事故の陰には、30回の軽微な事故が起きており、さらに1回の軽微な事故の陰には、30回の事故未満の現象が起きているというものです。
つまり、平穏無事なところに、いきなり重大事故が発生するわけではなく、その前には、事故未満や軽微な事故という前触れがあるということです。
そこから発展して、前触れを発見することにより、重大事故を防ぐことができるということにも、繋がります。
ヒヤリハットを実証したのが、先日起きた、菓子工場での火事です。
火事を起こした、三幸製菓の荒川工場では、これまでに8件も小火が起きており、消防署からも防火態勢の不備を指摘されています。
にも拘わらず、放置していたために、6人もの死亡者を出す大災害に、発展してしまったというわけです。