まだ貯めてもいない1億5千万円を、いかに子供に相続させるかを考えている男の話の続きである。
相談者は、相続税を減らす手段として、今年からの暦年贈与や、退職金で相続対策の不動産を購入することを考えている。
だが、そのように現金を減らしてしまって、自分たち夫婦の老後の生活が、果たして成り立つのかというのも、大きな問題である。
もし、70歳までに、首尾よく1億5千万円を貯められたとしても、退職した後の収入は、激減する。
家の修繕費や車の買い換えなど、月に22万円の年金だけで、生活費を賄えるとは、とても思えない。
しかも、相談者が死んだ後、残された妻の生活費はどうするのか。
相談者は56歳、妻は50歳と、6年も年の差がある。
平均寿命から考えて、妻は15年間、一人で生きなくてはならないのだ。
そのときに、資産の大半を、歴年贈与したり、不動産を購入してしまって、果たして妻は遺族年金だけで暮らしていけるだろうか。
結婚してから稼いだ資産は、夫婦の共有財産であって、決して無条件に全額を子供に譲るべきものではない。
せっかく稼いだお金を、すべて子供に取られると言われたときの、妻の心情はいかなるものかと、今から心配になってしまうのだった。
何しろ相談者は、妻のパートのボーナス8万円までも、今後貯める貯金の足しにして、子供たちに遺すといっているのだから。
それくらい、小遣いとして、自由に使わせてやれないものか。
加えて、既に社会人になっている息子2人に、そこまでしてお金を遺さないとならないものだろうか。
もちろん、相談者宅の内情はわからないし、もしかすると、子供たちに支援が必要な特段の事情があって、どうしても生きていくのに充分な金額を遺しておく必要があるのかもしれない。
だが、もしそうでないなら、お金を贈与し続けることは、かえって、息子たちの成長を妨げることにならないだろうかとも、思ってしまう。
では筆者なら、どうするか。
まず、筆者のいつもの主張通り、年金は75歳まで繰り下げ受給とする。
70歳の時点で、1億5千万円の資産があれば、あと5年間を無収入で暮らすことなどたやすい。
これにより、年金額がかなり増額される。
また、退職金の5千万円は、死亡時に全額現金で、妻に遺す。
さらに、相談者が、全額一括で受け取るとしている年金保険を、配偶者終身年金にし、妻の年金額を増やす。
1千7百万円の年金保険であれば、配偶者終身年金にしても、年間数十万円にはなるはずだ。
これで、妻の老後の生活は、かなり豊かになる。
子供に関しては、自分が死んだときから、暦年贈与を始めるなり不動産を購入するなりの、手配をしておけばいいと思う。
確かに、若いうちからライフプランを立てて、相続の心配をしておくことは、大事なことではある。
それにしても、この相談者は、極端過ぎる気がするのだった。