しばらく前に、『1億5千万円と不動産を、息子2人に相続させたい56歳会社役員』という記事が出ていた。
さすがは、会社役員ともなると、56歳にして、不動産以外に1億5000万円もの資産を持っているのかと、羨ましく思わずにはいられなかった。
しかも、それを老後資金として使うわけではなく、子供に遺せるだけ余裕があるのだということだ。
資産家というものは、若いうちから相続対策をしっかり考えておくものだなあと、感心もした。
だが、いざ読んでみて、(言っては悪いが)わけがわからなかった。
驚いたことに、相談者は、現在の時点で、1億5千万円という財産を持っているわけではなかったのだ。
現在の資産は、投資の1千2百万円と預金の6百万円の、合わせて1千8百万円しかないというのである。
しかも、持ち家は、住宅ローンがまだ4千3百万円も残っているという。
では、1億5千万円(プラス住宅ローンを合わせて約2億円)という巨額の遺産は、どこから来るのか。
何と、今後、70歳で役員を引退するまでの14年間で、貯める予定だというのである。
内訳は、年に5百万円ずつ貯蓄と投資をして、14年間で7千万円。
それ以外に、退職金が5千万円と、年金保険(全額払い終えたのかどうか不明)が1千7百万円あり、預金の1千8百万円を合わせて、1億5千5百万という計算なのだ。
それを、なるべく税金を払わず、子供に遺すにはどうすればいいのかと、相談していたのである。
こういうのを表現するのに、日本には、最適なことわざがある。
「捕らぬ狸の皮算用」というのである。
西洋にもあって、「don't count your chickens before they're hatched(卵が孵る前に雛を数えるな)」というらしい。
何と言っても問題は、「年に5百万円ずつ貯蓄と投資をして、14年間で7千万円」という巨額の金が、この先、本当に貯まるかどうかということだ。
相談者は、これまでに、それほど貯蓄をしていなかったと思われる。
毎月の支出として、毎月の貯蓄40万円、ボーナスからの年間貯蓄8万円とあるが、恐らく始めたばかりだろう。
コンスタントに貯蓄をしていれば、世帯年収1千万円なら、もう少し貯金があってもよさそうなものだからだ。
役員になったばかりで一気に収入が増えたということかもしれないが、それにしても、やはり少ない。
それを、いきなり、年に5百万円ずつ貯金するという荒技が、本当に続くものだろうか。
(続く)