まず疑問に思ったのが、7)にあるように、「癌細胞の周囲の環境を、アルカリ性に変えることにより、癌の勢いを止めることができる」とは、限らないのではないかということだ。
3),4)にあるように、「癌細胞が低酸素状態でエネルギーを産生する能力を持っており」、「自身の内部をアルカリ性に、外部を酸性に保つ働き」を持っていたとしても、それは癌細胞の活動の結果であって、原因ではないからだ。
「癌細胞は、酸性だとますます元気になるが、アルカリ性だと元気を失う」という証拠が、本書のどこにも示されていないのである。
次に、もし、「癌細胞は、『周囲の環境』がアルカリ性だと元気を失う」というのが、真実だとしよう。
著者は、癌細胞の周囲の環境をアルカリ性にするために、身体全体をアルカリ性にするのだと主張している。
それには、尿pHの値をモニターし、これが7.5よりも高くなるようにするように、食事やサプリでコントロールするのだそうだ。
だが、たとえ尿pHの値が7.5以上になり、身体がアルカリ性になったとしても、癌細胞の周囲という非常に狭い領域までもが、アルカリ性になっているとは限らない。
人間の身体は、決して均一な水袋ではなく、尿pHの値は、あくまでも身体全体の平均を示す目安でしかないからだ。
ある場所は、よりpHが高く、ある場所は、pHが低くて酸性のままであることは、決して有り得ないことではない。
だから、食事によって尿pHを調整し、平均値をアルカリ性に近づけたとしても、癌細胞の周囲が、目指した通りのアルカリ性になっているとは限らない。
その因果関係について、調べたという記載が、どこにもなかった。
ちなみに、尿pHについて、ネットで調べてみた限りでは、尿pHの基準値は6.0前後であり、腎臓によって、人間の身体は弱い酸性に保たれているのが、正常ということだ。
https://www.mrso.jp/inspection/226.html
尿pHが7.5以上となると、膀胱炎、尿道炎、腎不全など、病気を疑う必要があるとまで書いてある。
人体を、強制的にそのような状態に近づけて、本当にいいものか、甚だ疑問である。
もちろん、癌が治るなら、膀胱炎くらいは仕方がないという見方もあるのだろうが。
(続く)