最近の異世界もの(ノベル、コミックを問わず)でよく見かけるのが、優秀なパーティの中で、縁の下の力持ちの役割をしていた主人公が、その裏方的な功績を評価されずに、追い出されてしまう話である。
その後、主人公は、別のパーティにスカウトされたり、新しいパーティを組んだりして、好成績を上げるのに対し、追い出した方のパーティは、裏方がいなくなって皆が勝手なことをするため、空中分解してしまう。
初めてこの手の話を読んだときに思い出したのが、実際のスポーツ界であった、これと非常によく似た話である。
2000年代の初め、スペインの超強豪サッカーチーム、レアル・マドリード(レアル)が、ふんだんな金を背景に各国の有名選手を次々引き抜き、銀河系軍団と称する豪華チームを作ったときのことだ。
スカウトされたメンバーは、フィーゴ、ジダン、ロナウド、ベッカムといった、サッカーに興味がなくても知っているスター選手であった。これに、元からレアルにいたカシージャス、ラウール、ロベルト・カルロスなどを加え、綺羅星のようなチームが出来上がった。
ところが、これらの豪華メンバーが揃った6年間で、レアルは、スペイン国内リーグで2回、CLに至っては1回しか、優勝できていない。
これは、レアルがスター選手たちの攻撃力を表に出した超攻撃的サッカーを標榜し、守備に力を入れなかったのが、大きな原因であったとされている。
スター選手たちは、スターであるが故に、泥臭い守備をしなかった。
攻めている時はいいが、守備をする時に連係が取れず、あちこちに隙ができ、そこを突かれては失点していたのである。
そんな状態の中、今にも崩れそうな守備陣を支えるべく、懸命に奔走していたのが、クロード・マケレレという、地味な選手だった。
01/02シーズンのCL優勝は、決勝のジダンのボレーシュートでよく知られているが、実はその優勝までに最も大きく貢献したのが、マケレレだという説もある。
ところがレアルは、このマケレレの功績を、正当に評価しなかった。
彼のサラリーは、チームで最低に近かったそうだ。
そして2003年、さすがに低評価に耐えかねてサラリーアップを要求したマケレレに対し、レアルは侮辱的な扱いとともに拒否した。
結果としてマケレレは、レアルから飛び出し、チェルシーに移籍する。
その後のレアルは、CLで3年連続ベスト16止まりと、まったくと言っていいほど勝てなくなり、ついには銀河系軍団は崩壊する。
さて、異世界ものに戻るが、縁の下の力持ち役を勤めていた主人公を放り出したパーティが、悲惨な目に合うのは、レアルとよく似ている。
ところが、レアルにおけるマケレレは、周囲の正当な評価を求め、それが聞き入れられないと、新しい世界で活躍すべく、自分から移籍をしている。
それに対して、日本の異世界ものにおいては、主人公は追い出されるまで、自分の環境を変えようとはしていない。
何しろ、追い出されるということがなければ、主人公は、自分が軽んじられていることにすら、気がついていないのだ。
そして、低評価に甘んじたまま、何の不満もなく一生を終えていただろう。
では、なぜどの話もこのようなパターンになるかと言えば、主人公が評価に不満を抱き、他のパーティに移って成功するのでは、恐らく読者は納得しないからだと思う。
何しろ、日本では、与えられた環境に不満を表わすことは、好ましいことではないとされ、恵まれない状況であっても、知恵と誠意で何とかするのが美徳とされる。
理由もないのに追放するという理不尽なことをされて、初めて主人公は、相手を見返すことが許されるのである。
そのあたりが、いかにも日本的だと思ってしまった。
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