昔から、妻が、口もとについた汚れをティッシュで拭いて、それをすぐに捨てるのを見ると、いたたまれない気分になる。
ティッシュに限らず、紙というものは、すべて生きている樹を切り倒して作られたものだからだ。
それが、人工林であろうと自然の森であろうと、生命を奪うことには変わりはない。
そんなふうに思うようになったのは、小学生の頃に、読んだ本が関係している。
それは、『ナルニア国ものがたり』シリーズの最終第7巻、『さいごの戦い(C・S・ルイス著、岩波書店刊)』という本である。
同書の34ページに、ブナの精霊(木の精ドリアード)が、本体の樹を切り倒されて、王の前で倒れて嘆きながら死ぬ場面が出てくるのである。
その場面があまりに悲惨で、以来、金属やプラスチックなどの無生物を原料とするもの以外は、生き物を殺して使っているのだということを、強く意識するようになった。
ちなみに、食べ物に関しては、生き物を殺すのは、仕方がないと思っている。
動物であれ、植物であれ、殺して食べないと、こちらが生きていけないからだ。
汚れを拭いたりといった、他で代用できる用途には、生物由来のものは、なるべく使いたくないということである。
おかげで、鼻をかむ時は、ティッシュを少しでも無駄遣いしないように、まず眼鏡の汚れをティッシュで拭いた後で、かむことになる。
テーブルの汚れなどは、布巾で拭うし、ティッシュやキッチンペーパーで拭いても、何とかもう一度何かに使えないかと、しばらくはその場に置いたままにしている。
恐らく、私が妻に言いたいことがあるように、妻も、私に言いたいことがあるに違いない。
だが、自分の流儀を人に押しつけないのが、夫婦が平和でいる心得だということは、25年を越える結婚生活の中で、お互いに理解してきたということだ。