先日、「スマホ脳」という本を読みました(アンダース・ハンセン著、新潮社)。
かなり話題になった本ですから、読んだ人も多いことでしょう。
読む前から気になっていたのが、20年前に出た、「ゲーム脳の恐怖」という本との、題名の類似です(森昭雄著、日本放送出版協会)。
こちらは、脳神経学者の森昭雄氏が、ゲームをやり過ぎると、脳の前頭前野のβ波が低下し、認知症(本の中では痴呆)に近い状態になると主張し、かなりのブームになった本です。
ですが、「ゲーム脳」の内容は、脳の研究者により、トンデモ本に近い疑似科学であると、判断されています。
私は、まず「ゲーム脳」を読んだのですが、はっきり言って、「素人の科学実験」以下で、とても、科学的な批判に、耐えられるものではありませんでした。
自分で独自に開発した簡易脳波計と称する機械で、ゲームをした人の脳波を測定し、α波に対するβ波の比が低いことで、認知症になっていると判断しているのです。
そんな判断方法は、これまでに誰も認めていません。
しかも、彼の測定した「α波」、「β波」は、これまでに脳科学者たちが測定してきた脳波とは、違っています。
つまり、自分の開発した機械で、何を測定しているか、誰にもよくわからないものを測定し、それによって、ゲームをすると認知症になると、断定しているのです。
それでも、まだ「ゲーム脳」には、著者が何をやったかを、ちゃんと書いてあります。
ということは、他の研究者が、同じ試験を行なえば、それが正しいかどうか、判定できるわけです。
それに比べて、「スマホ脳」はさらにひどい内容でした。
スティーブ・ジョブスなどが、こう言ったからという発言の断片と、誰がどこでやったのかわからない実験を組み合わせて、「スマホは脳に良くない」というのを、根拠なしに主張しているだけです。
アメリカの実験ではとか、スウェーデンではとか、色々と書いてありますが、参考文献が、全くありません。
読者は、話の真偽を、確かめようがありません。
その結果の解析が、科学的に正確なものなのかだけでなく、本当に実験が行なわれたのかすらも、不明です。
さらにうさん臭いのは、この著者(精神科医)が、何年間に何人の患者を診て、そのうち何人が、スマホ脳なる症状を呈したか、全く触れていないところです。
どんな過激な薬物でも、百人が百人、同じ症状を起こすということは、ないはずです。
ましてや、たかがスマホを見るという行為だけで、全員に同じ症状が出ることなど、有り得ません。
それが、ちゃんと書かれていないのは、著者の印象と結論ありきで書かれた本だとしか、思えませんでした。
(この項、続きます)